馬と人の暮らし - 引退馬の養老牧場「ときがわホースケアガーデン」

  ときがわホースケアガーデン(→HPはこちら)という牧場が私の家の近くにあります。ときがわに住むようになるまでは、ほとんど馬に接する機会はありませんでしたが、ここで馬たちと触れあっているうちに、馬と人との関係に思いを巡らすようになってきました。

 古来より人と馬は深い関わりをもって生きてきました。南部曲り屋、白川合掌民家など、馬が人と同じ屋根の下で暮らしていた民家はよく知られています。また、「遠野物語」、「スーホの白い馬」など、日本各地、世界各地で伝えられてきた民話、童話、神話、又、絵画や彫刻など馬をテーマとした作品は数多くあり、生活の中で人間がどれだけ馬から恩恵を受けながら、戦時には無理を強いてきたかが伝わってきます。

南部曲り屋  「美しい日本の民家2」より
南部曲り屋  「美しい日本の民家2」より
白川合掌造り民家  作図/高橋俊和
白川合掌造り民家  作図/高橋俊和


アッシリア出土レリーフ「戦車と騎兵」
アッシリア出土レリーフ「戦車と騎兵」
シャガール「農民の生活」
シャガール「農民の生活」
ドーミエ絵「ドン・キホーテとサンチョ・パンサ」
ドーミエ絵「ドン・キホーテとサンチョ・パンサ」


 

 近所の道ばたには馬頭尊の石碑は数多くあり、ウマゴヤシもたくさん生えています。一方、現在では農機具、重機、自動車などが発達してきたために、馬は必要でなくなり、一般の人が馬の姿を見ることはまれです。

 

 ときがわホースケアガーデンではリタイヤした競走馬や東日本大震災、原発事故の被災馬がのんびりとおだやかに暮らしています。猫や犬やヤギたちもいるので、お子様連れの方たちが動物たちと触れ合いに訪れます。疲れた心や体を休めに自然を求めてときがわに来る人たちも、馬たちのやさしい眼を見たり頬を撫でたりしていると心が癒されるという人は多いと思います。

 引退した競馬の馬たちはそのほとんどが処分されてしまいます。少しでもその命を助けて、余生を安心してすごしてもらえるようにと、心ある馬主さんたちからお預かりしてお世話しているのが木村さんです。おだやかな牧場風景の影に、現代に生まれた馬たちの過酷な現実があることを、私は近所に住みながら徐々に知っていくことになりました。ふだん彼女は自分からはそういう話はあまりしません。これまでどんな大雪が降っても、カンカン照りの暑い夏の日も、嵐の日も、体調が悪い日も、盆も正月も一年中休日がなく、働いている姿を、近くに住む私たちは垣間見てきました。高齢の馬が病気になることもあり、治療のために獣医さんにきてもらい、夜も眠れない日も時にはあるそうです。いくら馬が好きとはいえ、なぜ彼女はそんな苦労の多い仕事を続けているのでしょうか。

 

 日本では競馬に使われるサラブレッドは、年間約8000頭が生産されていて、そのうち90%以上の馬は寿命を全うすることはできずに、殺処分されてしまうのだそうです。乗馬用の馬として訓練を受け直して乗馬クラブ等に引き取られる馬以外は、競馬に負ける馬、出る価値のない馬だけでなく、勝ち続けた功労馬でさえ、種馬になった後の、その寿命を生きさせてもらえることは難しく、経済的な理由から切り捨てられ、「廃馬」という結果にならざるをえないようです。馬や動物たちが好きな人にとってその現実は耐えがたいものがあると思います。一頭でも救える馬は救いたいという気持ちはあっても、体力、経済力の限界があり、一人の人間、ひとつのグループができることには限りがあります。 

 こういう思いをもった人たちの養老牧場は全国に徐々に増えているそうです。ときがわホースケアガーデンでは、NPO法人「引退馬協会」と連携して、福島からの被災馬コテツの里親制度の立ち上げをしていただくなど協力をあおぎながら、又、心あるボランティアの方たちに支えられながら、動物たちのお世話をしています。そして馬たちのためだけでなく、地域の人たちの憩いの場にもなれるようにと「子供やぶさめ」などのイベントも行っています。 

 「引退馬協会」のHPには次のような文章が載せられています。


 「引退した馬は役に立たないと言われた時代から、『馬がいるから楽しい』『馬に会いに行こう』という時代に変わりつつあります。こうした時代の流れの中で、引退馬が新たな経済の循環を生みつつあると感じます。引退馬を地域の活性化につなげることが次なる使命だと考えています。」
 

 

  養老牧場はどこも厳しい経営環境の中で頑張っているようですが、こういう方向に道が開けていくことを願っています。私のできることも限られてはいますが、細々とでも末永くおつきあいさせていただきたいと思っています。

 

 

 牧場でやさしく深い馬のまなざしを見ていると、人間たちの限界も矛盾も心の闇もすべてわかっていて、それでもなお人を暖かく包み込んでくれているような気がしてきます。 

 2011年の大震災の前の年に、ホースガーデンの持ち馬だった星ノ雷電王という馬が亡くなりました。そのあとに生まれてきたのが「星の馬」という歌です。この歌は一頭の馬と、その飼い主のためにつくったものでもありましたが、養老牧場として看取られてきた他の馬や動物たちのことを想い、そして、処分されてきた数限りない馬たちのことを想った時に、彼らが銀河の草原を、風を受けて自由に駆けまわっている姿が思い浮かんできて、歌になりました。

 手回しオルゴールの伴奏です。1番だけですが、お聴きいただければ幸いです。


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「星の馬」1番.mp3
MP3 オーディオファイル 1.7 MB

「星の馬」

広い野原を 星の馬たちが 風をうけて 走りぬける
きらきらきら降る星は 私たちをつつむ瞳
 ひたいの流れ星は 天の約束を伝える ah-

 

ひかる銀河を 星の馬たちが 風をうけて 走りぬける
どんな嵐の中でも おまえたちを見守る瞳
 暁(あかとき)に息づくいのち 明けの星々のささやき ah-

 

 

   歌菅井千春   詞と曲/高橋れい子 

    CD「小さな命」に収録しています。 

 

「小さな命」にはホースガーデンのアイドルだった、ミニチュアドンキーの歌「ふわふわろばのロージィ」、木村香織+高橋作詞の「ともだちっていいね」も収録されています。

ときがわホースケアガーデン、建具会館、越生町のカフェ「梅日和」で販売しています。「梅日和」さんでは月に一度の歌声喫茶で、皆さんが「星の馬」を時々歌って下さっています。

 

             

◇ReikoTakahashi Facebook  にホースガーデンのお知らせを時々載せていますので、こちらもご覧下さい。



馬と人の暮らし・いろいろ



  この写真は北海道に嫁いだ姉の子供たちが小さかった時のものです。義兄は馬が好きな人で、今も数頭飼っているそうです。北海道には若いころ行ったきりでなかなか遊びに行けませんが、こういう「馬と人の暮らし」もあるんですね。

  

 

 二十数年前の、友人の結婚式の時の様子です。自分で縫った花嫁衣装を着て、馬で神社まで歩いて式を挙げ、田んぼでの盛大なる披露宴でした。

 野口雨情作詞の歌のようです。 ♪シャラシャラ シャンシャン 鈴付けた  お馬にゆられて 濡れてゆく ♪

 

 



  ヤギのお話

先日、長野の実家に姉妹で集まった時に、妹が友達からヤギのお乳をもらってきてくれました。なつかしいやさしい味に、私たちが小さかったころ、家で飼っていたヤギの思い出話に花が咲きました。

 

 ヤギは春になると子供をたいてい2匹産みます。人間がヤギのお乳を飲むためには、ヤギを妊娠させ子を産ませないと乳が出ないからです。小さいころは、そういう言われてみればあたりまえのしくみを知りませんでした。かわいい子ヤギたちに名前もつけて、れんげの咲く田んぼに草を食べさせにいったりして仲良くなったころに、毎年必ずヤギ屋さんが買いにきて、2匹の子ヤギをかごに入れて連れていってしまいます。メエちゃんはどこに行くのかと親に問うと、ソーセージになるんだよという答えが返ってきます。運がよければ乳ヤギとして誰かに飼われるということもあったかもしれません。

 私が生まれた時には、母の乳の出が悪く、ヤギのお乳で育てられたそうです。私が成長するためには、毎年かわいい2匹の子ヤギの命を捧げなければならなかったのです。(それは私たちが普段あたりまえに飲んでいる牛のお乳にも言えることです)この経験のせいかどうかはわかりませんが、私は十八歳ごろまで肉が食べられませんでした。

 信州の寒い冬が終わり、福寿草が咲き、毎年暖かい春は巡ってきて、ヤギの赤ちゃんが生まれ、かわいがり、同じことが繰り返されました。でも、こういう命の矛盾を知ることも含めて、子供時代を自然の中で、動物たちと5人の姉妹とが過ごしてこれたことは、今思えば本当に幸せなことで、こういう暮らしを選んでくれた両親に改めて感謝の気持ちがわいてきます。